掻いているのに気付いたら(大人編)

[清水良輔先生の診察日記] 清水良輔先生

2013年12月03日 [火]

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皮ふ科しみずクリニック院長、清水良輔です。

湿疹の部位を掻くと神経ぺプタイドという快感物質が末梢神経から分泌されるため脳はある種のハイな状態になることが推察され、一旦掻き始めると途中で止めることは至難の業と考えられます。したがって「我慢しよう」とか「できるだけ掻かないようにしよう」などの決心も、その場に遭遇した人が「掻いたらダメ」などと助言してもほとんど役に立ちません。

習慣的掻破行動を克服するためにはいろいろな取り組みが考えられます。大きな鏡の前で自分が掻いている姿を見ながら掻くという提案をする皮膚科医もいます。掻破日記は学会などでも報告されています。いつ、どこで、どんなときに、どのように掻いたか、また掻くのが止まったきっかけ等を日々書き綴ってゆく方法です。

私も同じようにセルフモニタリングを提案していますが、日記として書き綴るのはなかなか大変だろうと考えて、日々掻くことの観察にチャレンジしてもらい、それを記憶にとどめ、積み上げていただきます。一定の掻破のパターンが見えてきたら、行動医学的に変化を起こしてもらえるように行動課題を出しています。

例えば、仕事から帰って自分の部屋で着替るときに下着姿で上半身を掻いて、その内椅子に座って下肢を掻く、掻きだしたら最低15分以上掻いて家族が声をかけに来ると収まる。というようなパターンが観察出来たとするならば、

  1. 帰宅後、自分の部屋に行く前にお茶を飲む。
  2. すぐ着替えずに30分以上くつろいでから着替える。
  3. 別の部屋で着替える。
  4. 着替えのついでに入浴する。
  5. 着替えの手順をかえる。
  6. 部屋に入ったら5分以内に家族に声をかけてもらう。

などなど。細かいバリエーションを考えればいくらでも変化は起こせます。結果が出なければ別の事をやってみればいいのです。

という訳で掻き始めたら「止めないと」などと考えずに、ともかくどんなタイミングで掻き始めたか、いつもの場所なのか、座っているのか立っているのか、どの部位から掻き始めたか、次はどの部位が痒くなりそうか、どんな手の使い方をしているのか、何分位掻きそうか、どんなきっかけで止まったかなど、一連の掻く行動を記憶にとどめることだけを考えていただきたいのです。
その方が掻く時間が短くて済む傾向がありますし、記憶が積み重なれば作戦(行動課題)を立てられます。

掻くことが減れば、アトピーは確実に良い方向に向かいます。

清水良輔先生

皮ふ科しみずクリニック院長(皮膚科専門医) 1953年、神戸市生まれ。
白衣を着ない出で立ちと、髭・長髪がトレードマーク。
兵庫県神戸市にて、皮膚アレルギー疾患を専門とし長年診療を続け、これまで診てきたアトピー性皮膚炎の患者数は3万人以上。
約15年、国内の皮膚科としては唯一、心身医学的な観点からアトピー性皮膚炎を診療し、数多くの患者さんを精力的に治療している。
趣味:料理、旅行、スキー、サッカー観戦、競馬、南の島で心理本を読むこと
好きなこと:食べること
座右の銘:次善の策

略歴

1978年帝京大学医学部卒業
1983年神戸大学医学部皮膚科 助手・医局長
1994年神戸労災病院皮膚科 部長
2001年神戸大学医学部臨床助教授兼任
2002年神戸市灘にて開業(皮ふ科しみずクリニック) 現在に至る

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