アトピー肌の保湿方法 -保湿外用薬(保湿剤)の選び方-
2017年1月12日 [木]
おすすめアトピー記事
治療の基本は乾燥を避けること
アトピー性皮膚炎の治療で大切なことは、皮膚がもっているバリア機能を低下させないことです。皮膚の表面を良い状態に保つことができれば、汗やホコリなどの外からの刺激に対して炎症を起こりにくくすることができます。
アトピー肌のバリア機能を低下させないためには「皮膚を乾燥させないこと」つまり「保湿」をすることが大切です。
皮膚の表面には角層(角質層)があります。角質層を一言で言うと「死んだ細胞の集まり」です。
角質層はわずか約 0.02 ㎜(ラップと同じくらい)の厚さで、角質細胞が10~20層も積み重なり、外部からの水分の侵入や蒸発を防ぎ、水分や皮脂が保たれています。一般に、皮膚の水分量は角質細胞間脂質、皮脂、そして天然保湿因子の三つの物質によって一定に保たれています。この皮膚の保湿機能が外からの刺激に対してバリアの役目を果たし、簡単には体内に異物が侵入できないようになっています。
ところが、アトピー性皮膚炎の患者さんは角質層の角層構造が弱いので水分保持力が低く皮膚が乾燥しやすく、バリア機能が低下していることが知られています。
そのため、外部の刺激をダイレクトに受けやすく、過敏に反応した部分が炎症を起こしてしまい、皮膚に赤みが出てしまうのです。そして、角質の下にある真皮が刺激を受けると、かゆみを起こす細胞(マスト細胞)が「かゆみ」の元になるヒスタミンを放出し「かゆみ」が起こります。
そこで、アトピー性皮膚炎の症状を改善させ、再発を予防して「かゆみ」を低下させるには、スキンケアで保湿を心がけ皮膚の乾燥対策を行い、皮膚の水分保持力を上げてバリア機能を良い状態に保持することが大切です。
保湿外用薬(保湿剤)の選び方
アトピー性皮膚炎は皮膚が乾燥しやすいため、普段は問題ない化粧品でも肌への刺激となることがあります。そのため病院で処方された保湿剤や、肌に合う市販の保湿剤を用い、しっかり保湿する必要があります。
保湿剤には皮膚のうるおいを保つ成分(ヒアルロン酸、ケラチナミンなど)が配合されていて、皮膚の保湿成分を高め、バリア機能を回復させてくれます。軟膏、クリーム、ローションなどの種類があり、「サラサラ」「しっとり」「肌にしっかりつく」など、使用感のタイプがあるので、自分にあったものを探したり、ミニサイズを買って試してみましょう。
主な保湿剤とその特徴
- 油脂性軟膏…刺激はほとんどないが、べたつきがある
ワセリンが代表的。精製度の高い「プロペト」や「サンホワイト」を使用することによって刺激を軽減するとよいでしょう。他にも、「プラスチベース」「亜鉛華単軟膏」「親水軟膏」「アズノール軟膏」などの種類があります。 - 尿素クリーム・ローション…尿素を10~20%含有するクリームのこと。角質の水分保持増加作用と、角質の溶解剥離作用があります。保湿効果が高く、べたつきが少ない。炎症のある部位に塗ると刺激が起こる場合がある
「ウレパール」「ケラチナミン」「パスタロン」などの種類があります。 - ヘパリン類似物質…保湿効果が高い。べたつきが少なく塗りやすい。塗りやすいがわずかな臭いがある。
「ヒルドイド」「ヒルドイドソフト」「ヒルドイドローション」などの種類があります。 - セラミド…皮膚にある天然の角質細胞間脂質。市販されているがやや高価
「キュレル」「AKマイルドクリーム」などの種類があります。 - その他…その他の軟膏、オリーブオイルなど。使用感は製品によって異なる
「ユベラ軟膏」「ザーネ軟膏」「ホホバオイル」「マカデミアナッツオイル」「スイートアーモンドオイル」などの種類があります。
最初に化粧品や保湿クリーム日焼け止めを使用する際には、必ず皮膚アレルギー試験(パッチテスト)を欠かさないようにしましょう。
いきなり顔や首など見える場所に塗布するのではなく、傷や肌荒れ・ニキビなどがない、上腕や二の腕の内側に塗って、24時間後と48時間後に様子を見て下さい。テスト中に、発疹・発赤・かゆみ・水泡等の異常・肌荒れなどが起こった場合はすぐにテストを中止し、洗い流してください。
アトピー性皮膚炎は気温や湿度によって肌のコンディションが大きく変化するため、保湿外用薬は自分にあった使い心地のものを2~3種類用意しましょう。例えば、夏はクリームタイプやローションタイプ、冬はワセリンベースなど、季節や体調、皮膚の状態、体の部位によって使い分けると良いでしょう。
保湿外用薬は、毎日のスキンケアとして欠かさないよう習慣にしましょう。症状の改善だけでなく予防効果も期待できます。アトピー性皮膚炎の症状がほとんど出ない寛解(かんかい)の状態(症状がほとんどなく日常生活に支障がない、あるいは症状が少しあってもあまり悪化しない)になっても、塗り続けるようにしましょう。
保湿のポイント
- 保湿剤は日に何回塗っても良い
- 入浴・シャワーの後、5分以内に塗る
保湿剤は、治療に使用するステロイド外用薬やタクロリムス外用薬とは異なり、使用量に制限がないため、1日に何度塗っても大丈夫です。
保湿剤は、皮膚に水分を与えるためのものではなく、皮膚の水分を閉じ込めて逃がさないようにするためのものです。乾燥した肌に保湿剤を塗ると一時的にはしっとりとしますがすぐに乾いてしまい、効果はあまり得られません。そのため、シャワー・入浴の5分以内に使用するのが効果的です。
入浴できないときも、ぬるま湯を霧吹きで吹き付けたり、市販の化粧水(刺激のないもの)を使用したりして、皮膚に水分を与えた後に塗るようにすると良いでしょう。
保湿は症状改善だけではなく、予防の効果もあるので、症状があまりひどくなくなっても、毎日のスキンケアとして習慣化することが大事です。
また、空気が乾燥すると肌も乾燥します。部屋の湿度は適度を保つようにしましょう。
肌を乾燥させない入浴方法
皮膚の表面についた皮脂や汗、保湿剤を塗った際に付着したチリやホコリを放置していると、雑菌が繁殖し、炎症・かゆみの原因になるため、洗顔・入浴で常に清潔にしておくことが重要です。
アトピー性皮膚炎の原因の一つに、黄色ブドウ球菌が増殖することがあげられます。入浴を長くしていないと、黄色ブドウ球菌が増殖してしまい、皮膚の状態が悪化してしまうと考えられます。
しかし、1日に何度も入浴したり、熱い温度のお風呂に長時間浸かると、肌のバリアが低下してしまいます。では、どのような入浴方法がアトピー肌によいのでしょうか。
入浴のポイント
- お湯の温度は38度~40度にする
温度が高すぎると皮膚への刺激が強くなり、かゆみや炎症が起こる場合があります。 -
ナイロンタオルなどでゴシゴシこすって洗わない
洗いすぎは肌表面のバリアが弱まり、外部の刺激物質が皮膚に浸透しやすくなり、免疫系の反応を引き起こしやすくなります。 -
洗顔のクレンジングに使うオイルやコールドクリームは低刺激のものを選択し、良くすすぐ
オイルやクリームはたっぷりと使って、顔にメイクや日焼け止めが残らないようにしましょう。 -
石鹸や入浴剤は刺激のないものを選ぶ
防腐剤、酸化防止剤、合成色素、合成香料が添加されてないものを選びましょう。 -
お風呂に浸かる時間は短すぎず長すぎず
リラックスして自律神経を整えることは、アレルギー反応を抑えるために効果的です。 -
拭くときはこすらずに押さえるように拭く
綿の柔らかいタオルで水滴をポンポンと押さえるように拭きましょう。 -
お風呂からあがったらすぐに保湿する
5分以内に、化粧水やクリーム、ワセリンなどの保湿剤を塗って乾燥を防ぎましょう。
衣類・寝具
アトピー性皮膚炎によって皮膚が乾燥・敏感になっている人は、衣類・寝具の種類によっては皮膚を刺激する原因になるので注意しましょう。生地の素材や肌触りにも注目しましょう。チクチクする素材や編み方が大きいものは、皮膚への刺激が大きいのでなるべく避けましょう。
授乳中のママも衣類には注意が必要。赤ちゃんを抱っこした時に、赤ちゃんの頬に当たってかゆみが出る場合もあります。寝具は布団を敷くより、ベッドか好ましいでしょう。ダニの住み家にならないよう、布団や枕にも気を配ります。
衣類・寝具の注意ポイント
- 毛先がチクチクする素材(ウールなど)は避ける
- 新品の下着は水洗いしてから使用
- 柔軟剤はかゆみを起こさなければ使用可
- 洗濯洗剤は界面活性剤の含有が少ないものを使う
- 寝具は綿100%のものが良い
- 布団や枕の中綿は羽毛・羊毛を避ける。ダニが繁殖しにくいポリエステル綿がおすすめ
洗濯は、界面活性剤の少ない洗剤を使い、すすぎの回数を多くしましょう。残った洗剤が刺激になって、かゆくなることを防ぎます。
皮膚をかかないための工夫
皮膚を傷つけない
かいてしまった時に皮膚を傷付けないように、爪は短くしておきましょう。寝ているときに無意識かいてしまう事も多いので、手袋をしたり、良くかく部分は包帯を巻いたりする等、工夫しましょう。手荒れがあると皮膚を引っ掻いてしまうので、指先の皮が固くならないようにクリームでケアしましょう。
患部を冷やす
患部を冷やすことは、かゆみの刺激を伝える神経の働きを抑えたり、血行を抑えかゆみの物質が広がるのを防いだりするため、有用です。やわらかい布で包んだ保冷剤、冷たいおしぼり等を利用しましょう。スプレー式の保湿剤には冷却効果もあります。
かゆみから意識をそらす
適度に体を動かしたり、自分の好きな事をして意識を他に向けたり、かゆみから意識をそらす工夫をしてみましょう。
その他、心がけたいこと
お掃除
まめにお掃除をして部屋をきれいにしましょう。
年に何回かは、子どものぬいぐるみやカーテン等も洗うようにすると良いでしょう。だだし、掃除や洗濯を徹底するあまりに、完璧を求め過ぎてストレスになることもアトピーには良くありません。ある程度気を配り、「普通のお宅よりきれいかな?」という程度でOKです。
食べ物
香辛料などの刺激物は控えましょう。チョコレートやケーキ、ファストフードなどの油もの、アルコール、珈琲などは人によってかゆみがでることもあります。気を付けましょう。
健康的な食生活は、健やかな体を保つという意味でとても大切なことです。アトピー体質の方に限ったことではありませんが、例えば野菜が少なく肉を中心とした食事など、家族全体が偏った食生活になってはいませんか?
中には、緑黄色野菜や海草が苦手という人も多いかもしれませんが、肉巻きニンジンや肉詰めピーマンなど、食材や調理法を考えれば食べやすくなるでしょう。栄養を偏りなく十分に摂れば、ビタミンやミネラル不足が解消されます。病院で処方された薬によるケアはもちろん大切ですが、健康な体はアレルギー体質改善の土台となってくれることでしょう。
(参考文献:古江増隆(九州大学大学院皮膚科学教授) 「正しい治療がわかる本 アトピー性皮膚炎」)
アトピーと保湿に関連した記事