2歳から12歳未満の治療はこのように進められます

[これが基本となる正しい治療です] 古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

2014年11月06日 [木]

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2歳~12歳未満の治療でも、基本となる治療は保湿外用薬によるスキンケアです。皮膚をしっかりと保湿したうえでステロイド外用薬を使用します。また、患者さんによっては抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の服用、部位や回復の状態によってはタクロリムス外用薬を用いて治療を進めていきます。
アトピー性皮膚炎は、最重症・重症と診断されても、適切な治療を続けることで回復します。あせらずに、前向きな気持ちで治療に取り組んでいきましょう。

ステップ1 アトピー性皮膚炎かどうか診察します

まずは、問診と触診による診察を行います。問診では、「かゆみ」「皮膚の状態」「発症してからの経過」などを聞きますが、患者さん本人が症状についてうまく説明できないときは、つき添いの両親や保護者などから話を聞きます。診察では、かゆみの程度を数字で示すVASや質問票を用いることがあります。また、くわしく診察するために血液検査でIgEや好酸球の量を調べることもあります。

ステップ2 保湿外用薬やステロイド外用薬などで治療します

アトピー性皮膚炎と診断されたら、保湿外用薬を少なくとも1日2回、できるだけ体全体に塗ります。最初に保湿外用薬によるスキンケアをしっかりと行って、低下した皮膚のバリア機能・生理機能を補っていきます。

軽症の場合、治療は保湿外用薬によるスキンケアが中心になります。

中等症ではストロングクラス以下のステロイド外用薬を使用します。

最重症・重症は、ベリーストロングクラス以下のステロイド外用薬を塗ります。ただし、どちらの重症度でも、顔や首など薬の吸収率が高い部位には、ミディアム(マイルド)クラス以下を使います。
ステロイド外用薬を塗り始めると、3~4日でかゆみや赤みがおさまってきます。この状態になったら、指でつまんで硬くなっているところだけに塗るようにします。皮膚が硬くゴワゴワした部位には、まだかゆみ物質が残っています。薬を途中でやめるとぶり返すため、忘れずに塗りましょう。

治療開始 ステロイド外用薬の目安

【中等症】
ストロングクラス以下 1日1~2回、適量塗布

【最重症・重症】
ベリーストロングクラス以下 1日1~2回、適量塗布
顔や首などは、ミディアム(マイルド)クラス以下 1日1~2回、適量塗布

また、かゆみや炎症が強いときは、補助療法として抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を使用します。薬は決められた量を飲みます。幼小児では使用できる薬が限られ、内服量や使用方法もそれぞれ異なるため、医師の指示にしたがいましょう。

抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬は、補助として使います

ステップ3 治療でよくなってきた場合

ステップ2の治療を続けていくと、3週間ぐらいで硬くなっていた患部もやわらかくなります。皮膚が健康な状態に戻ったら次のステップに進みます。

軽症では、スキンケアを続けます。

中等症では、ストロングクラス以下から一段階弱いミディアム(マイルド)クラスのステロイド外用薬に変更します。
または、クラスを変更しないで塗る回数を減らす方法もあります。これでよい状態が続けば、もう一つ弱いウィーククラスに変えます。その後は、皮膚の状態をみて少しずつ塗る回数を減らします。

最重症・重症は、ベリーストロングクラスより弱いストロングクラスに変更します。そのあと回復状態がよい場合は、ミディアム(マイルド)クラス、ウィーククラスと徐々に作用の弱いステロイド外用薬に変えます。ウィーククラスで症状が安定したら、しだいに塗る回数を減らします。

回復期 ステロイド外用薬の変更の目安

【中等症】
ミディアム(マイルド)クラス以下に変更 1日1~2回、適量塗布

【最重症・重症】
ストロングクラス以下に変更 1日1~2回、適量塗布

また、顔や首など薬の吸収率の高い部位には、長期間にわたってステロイド外用薬を使うことはむずかしいため、中等症や最重症・重症の場合、副作用の心配のないタクロリムス外用薬(商品名プロトピック軟膏)を使うこともあります。

タクロリムス外用薬の使用量の目安

・プロトピック軟膏(小児用0.03%軟膏)
顔や首などに1日2回、1回の塗布量は2~5歳(体重20kg未満)は1g、6~12歳(体重20kg以上50kg未満)は2~4gまで

さらに、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬は飲む回数をゆっくりと減らすか、症状が出たときだけ服用するようにします。また、保湿外用薬によるスキンケアは続けていきます。

スキンケアが楽しく続くよう励ましましょう

ステップ4 症状が変わらない、または悪化した場合

スキンケアは継続します。診察してあらためてステロイド外用薬を塗る量や回数をチェックします。小児のうちでも、とくに10歳以降の数年はスキンケアの管理と継続がむずかしい年ごろといえます。自立心が育ち始める一方で、親への依存心もあるため、本人に全面的に任せてしまうと親の世話をうとましいと思いながらも、不満や不安を感じるようです。まだ完全な自己管理は無理ですが、できだけ本人が使いやすい保湿外用薬を選ぶなど、手際よくすむ工夫をしてあげて、根気よく励ましながらスキンケアを続けましょう。

軽症の小児の場合、かゆみが現れたらミディアム(マイルド)クラス以下のステロイド外用薬を一時的に塗ります。その効果をみて、一つ上のストロングクラスのステロイド外用薬を塗ることもあります。それでもかゆみが強いときは、補助療法として抗ヒスタミンや抗アレルギー薬を服用します。

中等症で症状が変わらない場合は、ストロングクラスの別の種類のステロイド外用薬を用いて様子をみます。悪化したときは、とくに症状がひどい部位だけ、一時的に一つ上のベリーストロングクラスのステロイド外用薬を用います。

最重症・重症で症状が変わらないときは、ベリーストロングクラスの別のステロイド外用薬に変更します。また、悪化したときは、症状のひどい部位だけに、さらに強いストロンゲストクラスのステロイド外用薬を一時的に塗ります。

中等症最重症・重症でステロイド外用薬で症状が軽快し、皮膚にタクロリムス外用薬を塗ることが可能であれば、顔や首だけでなく胴体や手足にも試してもらいます。ステロイド外用薬は症状のひどいところのみに塗ってもらいます。抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の服用は続けます。

悪化した場合 ステロイド外用薬の目安

【軽症】
ミディアム(マイルド)クラス以下 一時的に1日1~2回、適量塗布

【中等症】
ベリーストロングクラスに変更 一時的に1日1~2回、適量塗布

【最重症・重症】
ストロンゲストクラスに変更 症状の強い部位に一時的に1日1~2回、適量塗布

また、最重症・重症の場合、これらの治療をしても改善しないときは、紫外線療法や、飲み薬のステロイド薬を用いた治療を試みます。入院して治療を行う場合もあります。

なかなか改善しない場合 ステロイド薬の服用量の目安

【ステロイド薬】
・プレドニゾロン(商品名プレドニン、プレドニゾロン) 1日に5~15mgから開始
・ベタメタゾン(商品名リンデロン) 1日に0.5~1.5mgから開始

症状の軽快後、タクロリムス外用薬が使える部位

ステップ5 治療の終了または継続・症状の安定

治療が順調に進むとかゆみや皮疹が出なくなり、保湿外用薬やタクロリムス外用薬だけで過ごせるようになります。これが治療のゴールです。

2歳~12歳未満の患者さんでは、転校や受験、学校での人間関係などがおもなストレスになります。アトピー性皮膚炎は、このようなストレスや環境の変化によって再発することがめずらしくありません。症状が安定したあとは、軽症中等症だった患者さんは、ミディアム(マイルド)クラスやウィーククラス、最重症・重症では、ストロングクラス以下のステロイド外用薬を常備し、症状が現れたら早めに塗って対応します。また、かゆみや炎症などが強く、再発した場合は、医療機関で適切な診察を受ける必要があります。

(正しい治療がわかる本 アトピー性皮膚炎 平成20年10月30日初版発行)

古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

1980年東京大学医学部卒業、同年東京大学医学部附属病院皮膚科学教室入局。
85年同病院皮膚科医局長。
86年、アメリカのNational Institutes of Healthの皮膚科部門に留学、88年東京大学医学部附属病院皮膚科復職。
同年東京大学皮膚科学教室講師、病棟医長。
92年山梨医科大学皮膚科学教室助教授、95年東京大学医学部皮膚科助教授。
97年九州大学医学部皮膚科教授、2002~04年九州大学医学部附属病院副院長兼任。
08年より九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターセンター長兼任。
02~04年厚生労働省研究班「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」主任研究者、05~08年同「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」主任研究者。

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