阪神大震災とアトピー性皮膚炎 2

[清水良輔先生の診察日記] 清水良輔先生

2013年12月04日 [水]

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皮ふ科しみずクリニック院長、清水良輔です。

震災当時神戸労災病院には約20名のアトピー患者さんが入院していました。最上階である6階の病棟は余震の揺れも強く、入浴も出来ない状況で多くの方が退院を希望されました。

一方、継続して入院を希望された方たちはアトピーの支援団体の方から紹介された大阪府下のある病院に転院していただき、私が往診に向かうという形にしました。

その病院は通常約1時間20分位で着くところにあるのですが、初めて往診にいった日は、神戸市内の渋滞と電車の間引き運転のため3時間もかかってしまいました。

週に1度時間をかけて往診に行く中、外傷などの急性期の医療対応が約1カ月ぐらいで一段落すると、外来患者の受診が激減し、入院患者もいない皮膚科医は何もすることがなくなりました。医師になって以来、こんな暇な時期を過ごしたことはありませんでした。

この時期は、「アトピーの患者さん達はどうしているのだろう?」と思いをめぐらすばかりで、何かしようという意欲が全く出てきませんでした。今思えば自分自身も被災しその影響を受けていたということなのですが、当時は全く気付きませんでした。
自宅や職場が破壊されたり、外傷を負ったり、ライフラインが閉ざされ入浴も出来ず、食習慣も乱れ、交通遮断で医療機関への受診もままならない状況で、きっと多くの患者さんがすごく増悪してつらい思いをしておられるに違いないと考えていました。

ある日、以前から診ている患者さんが病院に陣中見舞いに来てくれたのですが、話を聴いてびっくりしました。その人は家が全壊、命からがらバイクで逃げ出したそうです。その後、避難所生活をしながら、バイクの利点を生かしお世話係をすることになったそうです。アトピーの症状はというと、入浴もろくにできず薬がないにもかかわらず、不思議なことに、ひどかったアトピーの症状はすっかり消えてしまったとのことでした。

この話を聴いて、「自分自身もパワーダウンしている暇はない、この未曽有の災害のまっただ中で診療するという貴重な体験を通して、震災のアトピーに対する影響をしっかり見届けよう」という気持ちがふつふつと湧いてきました。

そんな状況の中、皮膚科外来にアトピー性皮膚炎の患者さんがぼつぼつ戻ってこられるようになったのは、ライフラインがほぼ完全に復旧した震災約3カ月後のことでした。

清水良輔先生

皮ふ科しみずクリニック院長(皮膚科専門医) 1953年、神戸市生まれ。
白衣を着ない出で立ちと、髭・長髪がトレードマーク。
兵庫県神戸市にて、皮膚アレルギー疾患を専門とし長年診療を続け、これまで診てきたアトピー性皮膚炎の患者数は3万人以上。
約15年、国内の皮膚科としては唯一、心身医学的な観点からアトピー性皮膚炎を診療し、数多くの患者さんを精力的に治療している。
趣味:料理、旅行、スキー、サッカー観戦、競馬、南の島で心理本を読むこと
好きなこと:食べること
座右の銘:次善の策

略歴

1978年帝京大学医学部卒業
1983年神戸大学医学部皮膚科 助手・医局長
1994年神戸労災病院皮膚科 部長
2001年神戸大学医学部臨床助教授兼任
2002年神戸市灘にて開業(皮ふ科しみずクリニック) 現在に至る

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