そのほかの薬 2

[これが基本となる正しい治療です] 古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

2015年7月02日 [木]

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漢方薬を使うこともあります

また、昨今、東洋医学への関心や要望が高まっており、「漢方薬で治療したい」と望む患者さんも少なくありません。実際、アトピー性皮膚炎の治療には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、消風散(しょうふうさん)、柴朴湯(さいぼくとう)などの漢方薬が用いられ、効果があるという報告も出ています。ただし、その多くは、医師の経験にのっとった「症例報告」に基づくもので、信頼性の高い大規模な研究報告はあまりありません。

漢方薬は西洋薬とは異なり、その患者さんの体質や体形(太っている、やせているなど)、皮疹(ひしん)の状態などを診察して、処方が決まります。そのため、一定の条件のもとで一定の治療を行い、何人中何人に効いたという西洋医学的な臨床試験の方法で評価するのはむずかしいのです。それでも最近では、漢方治療できちんとした臨床試験を行っていこうという動きが出ています。

たとえば、補中益気湯では次のような研究報告があります。長期間にわたるアトピー性皮膚炎の症状が、補中益気湯によって鎮静化できるかどうかを検討した研究です。

漢方独自の診察で気虚(ききょ)(体力が消耗した状態)と診断されたアトピー性皮膚炎の患者さん77人を2つのグループに分け、片方のグループの37人には補中益気湯(1日7.5g)、もう一方の40人にはプラセボ(本物に似せて作った偽薬)を、それぞれ24週間、服用してもらいました。

漢方薬の効果を検討

その結果、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬では、補中益気湯を服用した群のほうが、有意(統計的に差が出たといえる結果)に外用薬の使用回数が減少することがわかりました※6。ちなみに、この研究方法である「二重盲検法」(患者さんも治療を行う医師もどちらの薬を使っているかわからないように進める方法)は臨床試験の一つで、信頼性の高い方法として知られています。

このように、漢方薬も少しずつ研究結果が出ていますが、有効性は未知数です。漢方薬は、患者さんの「証(しょう)」(現時点の体力、抵抗力、体質など)にぴったりと合っていれば、かなりの効果は期待できます。しかし、薬がその人の証に合わないとあまり効きません。漢方の治療を受ける際は、このような特徴をよく理解しておきたいものです。アトピー性皮膚炎の治療においては、やはり、保湿とステロイド外用薬を治療の柱にして、漢方薬はあくまで補助療法として用いるべきだと思います。

なお、漢方薬には「不調な体質を治す」というイメージがありますが、皮膚のバリア機能が低下しやすい体質や、生まれもったアトピー素因を治すことはできません。

(※6)Kobayashi H, Ishii M, et al. :Efficacy and safety of a traditional herbal medicine,Hochu-ekki-to in the long-term management of atopic dermatitis associated with Kikyo (delicate constitution): A 6-month, multicentre, double-blind, randomized,placebo-controlled study,Evidence-based Complementary and Alternative Medicine, 2008(accepted for publication), 2008.04
【概要(和訳)】
20~40歳の気虚のアトピー性皮膚炎の患者さん77人に対し、補中益気湯を1日7.5g服用する群と、偽薬を服用する群に分けて、二重盲検ランダム化比較試験を行いました。24週間後に効果をみたところ、全体的な重症度には有意な差はありませんでしたが、補中益気湯を服用した群のほうが、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬(併用またはどちらか単独)の使用回数が有意に減少することがわかりました。また、著効率は補中益気湯の群が有意に高く(補中益気湯群19%、対照群5%)、悪化率は補中益気湯の群が有意に低く(補中益気湯群3%、対照群18%)なっていました。

(正しい治療がわかる本 アトピー性皮膚炎 平成20年10月30日初版発行)

古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

1980年東京大学医学部卒業、同年東京大学医学部附属病院皮膚科学教室入局。
85年同病院皮膚科医局長。
86年、アメリカのNational Institutes of Healthの皮膚科部門に留学、88年東京大学医学部附属病院皮膚科復職。
同年東京大学皮膚科学教室講師、病棟医長。
92年山梨医科大学皮膚科学教室助教授、95年東京大学医学部皮膚科助教授。
97年九州大学医学部皮膚科教授、2002~04年九州大学医学部附属病院副院長兼任。
08年より九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターセンター長兼任。
02~04年厚生労働省研究班「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」主任研究者、05~08年同「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」主任研究者。

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