2歳未満の治療はこのように進められます

[これが基本となる正しい治療です] 古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

2014年10月02日 [木]

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アトピー性皮膚炎の治療の基本は、保湿外用薬を使用したスキンケアです。とくに2歳未満では、保湿ケアだけで状態がよくなることが少なくありません。

軽症では、かゆみを伴う皮疹が出たときだけステロイド外用薬を塗ったり、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を服用したりします。アトピー性皮膚炎は、最初の診断で重症度が判定されても、よくなったり、悪くなったりを繰り返しやすいのが特徴です。治療中は日常生活にも気をつけて、できるだけ軽症の状態を維持して悪化させないようにしましょう。

また、乳幼児の場合、ステロイド外用薬の副作用について不安をもつ両親が少なくありませんが、医師の指導にしたがって、適切な量を正しい治療期間使っている限り、重い副作用をおこすことはありません。

ステップ1 アトピー性皮膚炎かどうか診察します

問診と触診による診察を行います。問診では「かゆみ」「皮膚の状態」「発症してからの経過」などを質問しますが、2歳未満の患者さんは症状について説明することができないため、つき添いの両親や保護者などから話を聞きます。また、かゆみの程度を数字で示す表(VAS)に記入してもらったり、質問票を用いたりすることもあります。さらに、血液検査でIgEや好酸球の量を調べることもあります。

ステップ2 保湿外用薬やステロイド外用薬などで治療します

アトピー性皮膚炎と診断されたら、まずは保湿外用薬を1日1~2回、できるだけ体全体にしっかり塗って皮膚のバリア機能・生理機能を補います。

軽症の場合、治療は保湿外用薬によるスキンケアが中心になります。アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能・生理機能の低下によるドライスキンが原因の一つです。もともと生まれもった体質なので根本的に治すことはできませんが、保湿外用薬を使って皮膚の角層(角質層)の乾燥を防ぐことで、バリア機能・生理機能を補っていきます。2歳未満では、大部分がこれだけで寛解の状態にもっていくことができます。

ステロイド外用薬を用いる必要がある場合、中等症は、ミディアム(マイルド)クラス以下、最重症・重症では、ストロングクラス以下を使用します。ただし、顔や首など薬の効き目成分の吸収率が高い部位には、年齢・重症度を問わずミディアム(マイルド)クラス以下を使います。使用回数は、症状が強いうちは1日2回、軽快したら1日1回とします。

患部に塗り始めると、3~4日でかゆみや赤みがおさまってきます。そうしたら、皮膚をつまんで硬くなっているところだけに塗るようにします。硬い皮膚(苔癬化(たいせんか))には、まだかゆみをおこす物質が残っています。このような状態でステロイド外用薬をやめると皮疹やかゆみがぶり返します。症状がなくなっても、続けて塗るようにしましょう。

治療開始 ステロイド外用薬の目安

【中等症】
ミディアム(マイルド)クラス以下 1日1~2回、適量塗布

【最重症・重症】
ストロングクラス以下 1日1~2回、適量塗布
顔や首などは、ミディアム(マイルド)クラス以下 1日1~2回、適量塗布

また、強いかゆみや炎症がある場合は、補助療法として抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を併用しますが、幼小児では使用できる薬が限られています。内服量や使用方法はそれぞれ薬によって異なるため、医師の指示にしたがいましょう。

スキンケアで皮膚の乾燥を防ぎましょう
3~4日で症状は落ち着いてきます

ステップ3 治療でよくなってきた場合

順調に経過すると硬かった患部もやわらかくなり、健康な皮膚に戻ります。そうしたら次のステップに進みます。

軽症では、スキンケアを続けます。

中等症では、ミディアム(マイルド)クラスから一つ弱いウィーククラスのステロイド外用薬に変更します。しばらく使って、よい状態が維持できるようになったら塗る回数を減らします。

最重症・重症では、一段階弱いミディアム(マイルド)クラスに変更します。その後、症状の改善に応じて、ウィーククラスに変えます。ウィーククラスになって皮膚の状態が安定したら、しだいに塗る回数を減らします。また、ステロイド外用薬のクラスは下げず、塗る回数を減らすこともあります。

抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬は、飲む回数をゆっくりと減らしたり、症状が出たときだけ服用したりします。また、よくなってきても保湿外用薬によるスキンケアは毎日続けます。

回復期 ステロイド外用薬の変更の目安

【中等症】
ウィーククラスに変更 1日1~2回、適量塗布

【最重症・重症】
ミディアム(マイルド)クラスに変更 1日1~2回、適量塗布

ステップ4 症状が変わらない、または悪化した場合

スキンケアは継続します。診察してあらためてステロイド外用薬を塗る量や回数をチェックします。

軽症の場合、かゆみが現れたらミディアム(マイルド)クラス以下のステロイド外用薬を一時的に塗ります。また、治療の効果をみて一つ上のストロングクラスのステロイド外用薬を塗ることもあります。かゆみが強いときは、補助療法として抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を服用します。

中等症で症状が変わらない場合は、ステロイド外用薬の量や塗る回数を増やします。または、ステロイド外用薬をミディアム(マイルド)クラスの別の薬に変更します。悪化したときは、かゆみや炎症がひどい部位だけに一時的に一つ上のストロングクラスのステロイド外用薬を塗ります。

最重症・重症では、ストロングクラスの別のステロイド外用薬に変更して様子をみます。悪化したときは、とくにひどい部分だけ、一時的に一つ上のベリーストロングクラスのステロイド外用薬を塗ります。

悪化した場合 ステロイド外用薬の目安

【軽症】
ミディアム(マイルド)クラス以下 一時的に1日1~2回、適量塗布

【中等症】
ストロングクラスに変更 一時的に1日1~2回、適量塗布

【最重症・重症】
ベリーストロングクラスに変更することもある。症状の強い部位に一時的に1日1~2回、適量塗布

また、2歳未満では、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併していることが少なくありません。食物アレルギーでもっとも現れやすい症状が皮膚症状です(下記グラフ参照)。保湿やステロイド外用薬などの治療をしても症状がなかなか改善せず、食物アレルギーが疑われるときは、スクラッチテストなどの皮膚試験やIgE検査を行って、原因になっている食べ物を調べます。合併していることがわかったら、食物アレルギーの治療も行います。また、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を服用している場合は、継続して服用します。

最重症・重症の患者さんで、これらの治療をしても改善しないときは、入院して治療を行う場合もあります。

食物アレルギーで現れるおもな症状
スキンケアを続け、症状が現れたらステロイド外用薬を使います

ステップ5 治療の終了または継続・症状の安定

症状がない、またはごく軽い症状で日常生活に支障がなければ、ステロイド外用薬や内服薬による薬物療法は終了します。皮膚のバリア機能・生理機能を低下させないため、保湿外用薬を使ったスキンケアは続けます。

2歳未満で発症した場合、保湿外用薬によるケアをおこたらなければ、成長とともによくなることが多いですが、アトピー性皮膚炎は再発することがめずらしくありません。中等症最重症・重症では、症状が安定したあともミディアム(マイルド)クラスやウィーククラスのステロイド外用薬を常備し、症状が現れたら早めに用いて治療します。また、症状が完全にぶり返してしまった場合は、医療機関で診察を受けましょう。

(正しい治療がわかる本 アトピー性皮膚炎 平成20年10月30日初版発行)

古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

1980年東京大学医学部卒業、同年東京大学医学部附属病院皮膚科学教室入局。
85年同病院皮膚科医局長。
86年、アメリカのNational Institutes of Healthの皮膚科部門に留学、88年東京大学医学部附属病院皮膚科復職。
同年東京大学皮膚科学教室講師、病棟医長。
92年山梨医科大学皮膚科学教室助教授、95年東京大学医学部皮膚科助教授。
97年九州大学医学部皮膚科教授、2002~04年九州大学医学部附属病院副院長兼任。
08年より九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターセンター長兼任。
02~04年厚生労働省研究班「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」主任研究者、05~08年同「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」主任研究者。

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