治療のポイントQ&A 1

[これだけは聞いておきたい治療のポイントQ&A] 古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

2016年11月17日 [木]

おすすめアトピー記事

赤みやかゆみが消えて、ずいぶん楽になりました。ステロイドはやめてよいですか。

自分勝手な判断ではやめず、医師に相談してください。赤みやかゆみがなくなっても炎症をおこす物質が皮膚の細胞にまだ残っている可能性があります。つまんでみて、硬い部分はありませんか。それが一つの目安です。不十分な状態で中止すると、すぐに症状がぶり返してしまいます。

ただし、十分に落ち着いた状態を取り戻したと思っても、しばらくすると症状が繰り返されることもあり、それがこの病気の特徴でもあります。「いつまでたってもステロイドが手放せない」「いつになったらやめられるのか」と焦る気持ちがおこってくるのは無理もないことです。しかし、長い目で見ると、少しずつ炎症もおさまり、下のグラフのように症状が落ち着いている期間がだんだんに長くなっていきます。目下、治療中の患者さんにはずいぶん悠長(ゆうちょう)に聞こえるかもしれませんが、いずれステロイド外用薬なしでも、よい状態を保てるようになります。また、たとえステロイド外用薬を使わなくてはいけないとしても、症状をコントロールできて、日常生活に支障がなければ、治療の目標は達成していると考えることもできます。必要なときに、必要な量を必要な期間だけ使う。それさえ守っていれば、ステロイド外用薬はこわい薬ではありません。安心して治療を続けてください。

治療を続けると症状の軽い期間がだんだんと延びてきます

ステロイドに不安があり、数度、医師を変えましたが、そのたび「大丈夫ですから」と言われるだけ。どうしてもステロイドは使わなければなりませんか。

皮膚の炎症を鎮めて、かゆみを抑えるために、ステロイド外用薬による治療は欠かせません。それなのに、一部の報道やかたよった治療法の宣伝によって「ステロイドはこわい薬」「使い始めたら一生使わなければならない」「やめたら、かえって症状がひどくなる」と、ステロイドを誤解している患者さんは、まだまだあとを絶ちません。アトピー性皮膚炎の治療は、まず、こうした患者さんの「誤解」や「思い込み」を解き、ステロイドによる治療を受け入れてもらうことから始まるともいえます。患者さんに対して、効き目も副作用もすべて十分に説明することが治療の第一歩と考えています。

世界中でステロイド外用薬(塗り薬)が使われるようになってから、約50年が経過しました。その間、効果と副作用については十分に研究結果が蓄積されており、むしろ安全に使える薬の一つといえます。ただし、使用にあたっては患者さんごとに種類や用量が違ってきますので、医師の指示にしたがってもらいます。

また、ステロイドの副作用に対する代表的な勘違いの一つが、塗り薬と、注射剤や飲み薬を一緒に考えてしまうことです。ステロイド外用薬は、皮膚から吸収されても血液中に入る量はごく少量ですから、通常の使用量を守っている限り、全身性の副作用が出ることはありません。外用薬による副作用は、ほとんどが皮膚の薬を塗った箇所に限られます。しだいに使用量が減って、必要がなくなれば、その症状は消えていきます。

リバウンドや離脱症状への不安も、注射剤や飲み薬との混同によります。注射剤や飲み薬の治療を長期に行い、血液中のステロイドの量がある程度保たれていると、本来ステロイドをつくっている副腎(ふくじん)が役目をさぼり始めます。そのため、いきなり薬をやめることで、体の外から供給されるステロイドが断たれると、体を維持するために必要なステロイド自体も不足してしまい、深刻な症状が現れます。しかし、塗り薬で、そのようなことがおこることはありません。また、よくリバウンドといわれる症状の悪化についても、そのほとんどが、塗る量が十分でない、きちんと治りきる前に自分の考えで薬をやめてしまったなど、ステロイド外用薬の作用というよりは、正しい使い方をしていなかったことによっておこったものです。

アトピー性皮膚炎は、症状が繰り返され、なかなか治りにくい病気です。治療には前向きな気持ちと根気が必要です。患者さんが納得して治療に臨まなければ、ますます長引くことになりますし、不安やイライラなどのストレスはかゆみなどの症状をいっそう悪化させます。ぜひ、治療の柱の一つであるステロイド外用薬に対しては、正しい知識をもって、治療に取り組んでいただきたいと思います。

ステロイド外用薬を塗っているときも保湿外用薬は必要ですか?塗る順番はありますか?

保湿外用薬によるスキンケアは、アトピー性皮膚炎の治療の基本です。ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬で治療しているときも、皮膚にしっかり塗って角層の乾燥を防ぎ、バリア機能が低下しないようにしましょう。

皮膚に塗る順番は、塗りやすさを考えると最初に保湿外用薬、そのあとにステロイド外用薬またはタクロリムス外用薬にしたほうがよいでしょう。ただし、どちらを先に塗っても、薬の効果に影響することはないのでご安心ください。

ステロイド外用薬を塗っていたら皮膚が黒くなった気がします。副作用ですか?

「ステロイド外用薬を塗っていると副作用で皮膚が黒くなる」と思われている方がけっこう多いようですが、それはまったくの誤解です。皮膚が黒くなるのは、薬の作用によるものではなく、アトピー性皮膚炎そのものが原因です。

皮膚は炎症をおこしたあと、一時的に黒ずむ、いわゆる色素沈着をおこすことがよくあります。アトピー性皮膚炎は皮膚の炎症が何度も繰り返されることから、顔や首、ひじ、ひざの関節の裏側などの部位では、しだいに色が濃くなり、目立ってきてしまうのです。

この色素沈着は、とくに大人のアトピー性皮膚炎でよくみられます。時間はかかりますが、アトピー性皮膚炎が改善すればだんだんと元の皮膚の色に戻ります。

大人のアトピー性皮膚炎による「赤ら顔」を治すことはできますか?

少し前まで「赤ら顔」は治りにくい症状の一つとされていましたが、タクロリムス外用薬を使えるようになった現在では、きれいに治すことができるようになっています。タクロリムス外用薬が出る前は、赤ら顔の治療には、比較的強めのステロイド外用薬を長期的に使わなければなりませんでした。しかし、実際には副作用の問題などによって、ほとんどの場合、症状が完全にとれる前に使用を中断せざるをえず、なかなか治らないという状態でした。

その点、タクロリムス外用薬は、ステロイド外用薬のような副作用がないので、長期的に安心して使うことができます。ステロイド外用薬の代わりにタクロリムス外用薬を使うことで、赤ら顔の治療効果は大きく改善しました。

これとは別にかゆみを伴わない赤み、たとえば、お酒を飲んだり、緊張したりしたときに、皮疹があったところが部分的に赤くなることがあります。このような「反応性の赤ら顔」に対しては、更年期障害のほてりやホットフラッシュによく用いられる漢方薬の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が有効なことがあります。

(正しい治療がわかる本 アトピー性皮膚炎 平成20年10月30日初版発行)

古江増隆 九州大学大学院皮膚科学教授

1980年東京大学医学部卒業、同年東京大学医学部附属病院皮膚科学教室入局。
85年同病院皮膚科医局長。
86年、アメリカのNational Institutes of Healthの皮膚科部門に留学、88年東京大学医学部附属病院皮膚科復職。
同年東京大学皮膚科学教室講師、病棟医長。
92年山梨医科大学皮膚科学教室助教授、95年東京大学医学部皮膚科助教授。
97年九州大学医学部皮膚科教授、2002~04年九州大学医学部附属病院副院長兼任。
08年より九州大学病院油症ダイオキシン研究診療センターセンター長兼任。
02~04年厚生労働省研究班「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」主任研究者、05~08年同「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」主任研究者。

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。

興味のあるタグをクリック